平成26年6月20日宣告
裁判所書記官 木暮武久

 

判   決
本籍 前橋市下細井町635番地15
住居   前橋市下細井町635番地15

 

無職

松浦紀之
昭和35年3月25日生

 

上記の者に対する旅行業法違反被告事件について、平成26年2月24日前橋簡易裁判所が
言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官神田浩行
出席の上審理し、次のとおり判決する。

 

主   文

 

本件控訴を棄却する

 

理   由

 

本件控訴の趣意は、弁護人山田基幸作成の控訴趣意書及び趣意補充書に記載されたとおりである。

 

第一 法令適用の誤りの論旨について

論旨は、要するに、被告人の行為は旅行業法違反には該当しないし、仮に同法違反であるとしても、
同法自体が憲法に反し、判決に無効であるから被告人は無罪であるのに、これを有罪とした原判決には、
判決に影響を及ぼすことが明かな法令適応の誤りがある。というのである。
 そこで検討すると、原判決が「罪となるべき事実」の項で説示するとおりの事実、すなわち、被告人は
旅行業等を営む観光会社(以下「本件会社」という)の代表取締役であったが、同社の業務に関し、観光庁
長官又は群馬県知事の行う登録を受けないで、リゾートホテルから金員を得て(後記のとおり、これが旅行業法
所定の報酬に該当するか否かについて争いがある),

同ホテルのため、平成23年4月及び同年8月の2回にわたり、同ホテルに対し集客した旅行者の宿泊予約を
するなどし、同ホテルがそれぞれ28名及び34名の旅行者との間で宿泊契約を締結するのを各媒介したことは
証拠上明かであり、被告人及び弁護人もこれらの事実自体は争わないところ、以下のとおり、これらの行為が旅行
業法に違反することも同法が憲法に反しないことも、

 いずれも明かであり、原判決がその理由として「被告人及び弁護人の主張に対する判断」の項で説示するところも
正当であるから、原判決には判決に影響を及ぼすことが明かな法令適応の誤りはない。

 

1 所論は、被告人が報酬を得て前記各媒体を行ったとはいえないから、旅行業の禁止する行為に該当しない、という。

原判決は前記判断の項の1で、これと同旨の原審弁護人の主張に対し、概略次のように説示している。

 

旅行業法2条1項本文の「報酬を得て」とは、同項各号に揚げる行為を行 

 うことによる対価を得てという意味であるところ、関係証拠によれば、被告

 人は、本件会社の業務に関し、リゾートホテルとの間で予め締結した契約に

 基づき、同項4号所定の「媒介をする行為」に該当する前記原判示の各行為 

 を行ったことにより、同ホテルから二つの団体の旅行客が同ホテルに支払っ

 た宿泊料の13パーセントに当たる金員を受領したことが認められるから、

 各媒介行為と被告人が受領したこれらの金員との間に対価関係があることは

 明かであり、そうである以上、これらの金員が同法2条1項本文の「報酬」

 該当することは明かである。
  こうした原判決の判断は正当として是認できる。
  所論は、旅行業法の主たる目的は、旅行業者の不履行等により旅行者が経

 済的不利益を受けることの防止であるところ、本件で被告人が受領した金員

 は、旅行者でないリゾートホテルから、各旅行の終了後に支払われたもので

 あって、旅行者が経済的不利益を被る余地はなかったから、被告人の行為は

 旅行業法の禁じる行為に該当しない、という。
  この解釈によれば、同法2条1項本文にいう報酬とは、宿泊サービス等の

 履行前に旅行者から受ける対価ということになるが、同項は。その各号に定

 める行為の報酬について、旅行者あるいは宿泊業者等のいずれから受けるも

 のかを区別せず、また、その受ける時期についても何ら定めていないのであ

 るから、法文上そのように解釈することはできず、実質的にも、後期2のよ

 うな同法の登録制度の目的に鑑みれば、報酬の意義について、所論のいうよ

 うに限定して解釈するべき理由はないというべきである。所論は独自の見解

 をいうもので、到底採用の限りではない。

 

2 所論は、旅行業法の登録制度は職業選択あるいは営業の自由を定めた憲法

 22条1項に反しているから、旅行業法は無効である、という。
 

  原判決は前記判断の項の2(1)で、これと同旨の原審弁護人の主張に対

 し、概略次のように説示している。

 

  旅行業法3条が、旅行業法を営もうとする者は、観光庁長官の行う登録を

 受けなければならないとし、同法2条1項所定の旅行業を営もうとする者に

 対し登録を受けなければならないとし、同法2条1項所定の旅行業を営もう

 とするものに対し登録を義務づけているのは、同法の目的が旅行業務に関す

 る取引の公正の維持、旅行の安全の確保及び旅行者の利便の増進を図ること

 にある(同法1条)からであり、その目的のためには、一定の不適格者を排

 除し、無登録者が不当な利益のために旅行者と運送等サービス提供者との間

 に介入する行為等を防止する必要性が高い。

   しかも、同法の登録制度は、観光庁長官において、同法4条所定の申請が

 あった場合には、同法6条1項所定の事由がある場合を除き登録をしなけれ

 ばならない(同法5条1項)のであり、その登録に当たっての裁量を認めて

 いない。

   また、同法6条1項所定の除外事由についても、前記目的の目的、必要性、

 登録用件等に鑑みると、同法3条は、公共の利益のために必要かつ合理的な

 措置を定めたものといえるから、同法3条は、公共の利益のために必要かつ

 合理的な措置を定めたものといえるから。憲法22条1項に反しない。
  こうした原判決の判断は正当として是認でき、旅行業の登録を受けた者に

 対する規制も、営業保証金の供託の義務(同法7条)、旅行業務取扱管理者

 の選任(同法11条の2)、料金の掲示(同法12条)等であって、前記の

 正当な目的を達成するための手段として必要性や合理性に欠けるものとはい

 えず、登録制を定めて登録者のみに旅行業を認めることとした旅行業法の規

 制は立法府の合理的な裁量の範囲を超えるものではないということができる。
  所論は、被告人の行為は直接の相手である旅行者及びホテルを利すること

 があっても害する余地のないものであって、このようなことについて登録し

 なければできないというのは極めて無用な制限である、というが、たまたま

 弊害の生じなかった事案を取り上げて登録制度そのものを否定する主張が不

 合理であることは、明かであり、ホテル側から報酬が後払いされる場合であ

 っても、オーバーブッキング、キャンセル通知の懈怠、古代広告等により、

 ホテル側や旅行客に様々なトラブルや損害が生じる可能性があるから、被告

 人の経営する会社のようなシステムを採る業者に規制が不要であるなどとは

 いえない。

   なお所論は、旅行業法3条の本件に対する適用が違憲である、ともいうが、

 これまでの検討に照らせば、到底採用の限りではない。

 

3 以上によれば、原判決の判断に何ら誤りはない。論旨は理由がない。

 

第2 量刑不当の論旨について

  論旨は、要するに、被告人を罰金30万円に処した原判決の量刑は重すぎ

 て不当である、というのである。

  そこで、検討すると、本件事案の前記第1でみたとおりである。
  被告人は、本件会社を経営し、旅行業法に関する行政の指導等を嫌って自

 ら旅行業の廃業を届け出たにもかかわらず、従前どおり旅行業を営んで本件

 に至ったのであって、その身勝手な動機、経緯に酌むべき点はなく、現在も

 独自の見解による自己の行為の正当性を主張しており、反省の情は全く認め

 られない。

   そうすると、被告人の刑事責任を軽くみることはできないのであって、こ

 れまでさしたる前科がないことなど、被告人のために酌むべき事情を考慮し

 ても、原判決の量刑が重すぎて不当であるとはいえない。
  所論は、本件起訴は、捜査機関が被告人を弾圧する目的で狙い撃ちした偏

 頗、不公平なものであり、公訴権濫用に近い、という。
  しかし、原判決が前記判断の項の2(2)で、原審弁護人の同様の主張(た

 だし、憲法14条違反をいうものであった)に対し説示するように、被告人

 は群馬県の所官課や全国旅行業協会から再三にわたり業務運営の是正を求め

 られながら、立入検査を拒否するなどして行政指導等を一切受け付けず、業

 務を改善しなかったばかりか、前記のとおり自ら廃業を届け出た後も旅行業

 を続けたため、前記協会の刑事告発を受けて捜査がされるに至ったのであり、

 このような経緯に鑑みれば、本件起訴は正当であって何ら偏頗、不公平では

 なく、被告人を弾圧する目的などというものも全くうかがえない。
  論旨は理由がない。
 

  よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却し、当審における訴訟費用

 を被告人に負担させないことについて同法181条1項ただし書を適応して、

 主文のとおり判決する。

 

平成26年6月20日
東京高等裁判所第8刑事部

 

裁判長裁判官 大島隆明

 

裁判官 加藤学

 

裁判官 安藤祥一郎

 

これは謄本である
平成26年6月20日
東京高等裁判所第8刑事部
裁判所書記官 小暮武久


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